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不動産売却を円滑に進める委任状の書き方と注意点

2023.11.07

不動産売却を円滑に進める委任状の書き方と注意点

不動産を自分で売却できない時は、委任状を書くことで、第三者に手続きを任せられます。

ただし、委任状は、所有者本人と同等の権限を与えられる、非常に強力な書類です。
委任状の内容に不備があったり、白紙委任したりすると、簡単に悪用できてしまう書類なので、トラブルを防ぐ上で最低限必要な書き方のポイントを押さえておきましょう。

本記事では、不動産売却時に使う委任状の役割から、手続きを円滑に進めるために知っておきたい委任状の書き方、注意点について解説していきます。

不動産売却の委任状は何のための書類なのか

不動産売却の委任状とは、売却手続きを代理人に任せるための書類です。
本来、不動産の売却や登記の手続きができるのは、不動産の所有者本人のみ。
たとえ所有者の家族であっても、不動産売却は代行できません。

しかし、「不動産の所有者」が、「代理人」に対して、「売却手続きをお願いする」委任状を作ると、各種手続きを代わりにやってもらえます。
委任状には書式の指定がなく、簡単に作れるため軽く考える方もいますが、本来なら法的にできない手続きをできるようにする、非常に重要な書類です。

不動産の売却時に委任状が必要になるケース

●所有者が自分で売却手続きできない場合

不動産の売却時に委任状が必要になる代表的なケースが、所有者が自身で売却手続きを進められない場合。

具体的には、以下のようなシチュエーションで、委任状が必要になります。
・遠方に住んでおり、不動産業者探しや売買の立ち会いが難しい
・病気や怪我で入院中
・海外に居るため日本で売却の準備ができない
・単純に忙しく売却手続きをする暇がない

不動産は遠隔でも売却できますが、少なくとも買い主との売買契約締結時、そして物件引き渡し時の2回は立ち会いが必要です。
何らかの事情で本人が立ち会えない場合は、委任状を用意して売却手続きを進めましょう。

●不動産を複数名で共有している場合

複数名で名義を共有している不動産を売るときは、所有者全員の同意が必須です。

ただ、全員の許可を得るのは大変ですし、どの不動産業者と契約するのか、どの買い主に売るのか、買い主からの値下げ要求にどう対応するかなどを、毎回全員で確認するのは現実的ではありません。
こうしたケースでは、所有者の一人を代表とし、他の所有者に委任状を書いてもらって売却手続きを行います。
なお、委任状の内容があいまいだとトラブルになりやすいため、共有名義の不動産を売るときは、代理人の権限や期限を細かく定めた委任状を用意しましょう。

●信頼できる第三者に売却手続きを任せたい場合

不動産売却を考えているものの、不動産について詳しくないので、専門家や不動産売買に詳しい知人、信頼できる相手に売却手続きを任せたいというケースもあります。
この時に重要なのが、委任状を作り込むことです。
「信頼しているから」と適当に任せた結果、代理人が勝手に値引きをしてしまったり、悪徳業者にお金をもらって不動産を安く売ったりするような事態になると、もともとの信頼関係まで崩れてしまいます。
代理人が万が一良くないことを考えても、悪事ができないような委任状にすることが大切です。

委任状を作っても不動産売却できないケース

●売り主に成年後見人がいる場合

不動産の所有者が、認知症や寝たきりの状態で意思疎通を取れず、成年後見人を立てている場合、所有者本人の署名・捺印済み委任状があっても、不動産を売却できません。
なぜなら、認知症や寝たきりの状態だと、「本当に本人が不動産の売却を望んでいるのか」を確認できないからです。
なお、成年後見人は本人の財産を管理するための存在ですが、不動産を自由に売却する権限はありません。
成年後見人のいる方が持っている不動産を売る時は、家庭裁判所から不動産売却の許可を得た上で、成年後見人が売却手続きを進めることになります。

●所有者が未成年の場合

不動産の所有者が未成年である場合、委任状があっても不動産を売却できません。
理由は単純で、日本の法律上、未成年者が契約を交わしても、契約自体が無効になるというルールがあるからです。
たとえ未成年の所有者が不動産の売却に同意しており、本人から頼まれて委任状を預かっていても、委任状や委任状を使って行った売買契約は無効となります。
未成年者が所有する不動産を売る場合、本人だけでなく、法定代理人(保護者・親権者)の同意も必要です。

委任状の必要事項と基本的な書き方

●委任状の必要事項

委任状を書く時は、以下の項目を記載しましょう。

・「委任状」というタイトル
・作成日
・委任する内容
・委任者(不動産所有者)の住所・氏名
・受任者(代理人)の住所・氏名
・売却する不動産の所在地
・不動産の売却条件
・委任状の有効期限
・委任者・受任者両方の実印による押印

作成日がわからないもの、委任する内容があやふやなもの、どの物件の売却を委任するのか不透明な委任状は、トラブルを招きやすいです。
また、実印を押す関係上、委任者・受任者の印鑑証明書も用意しましょう。

●委任状の形式や書き方

委任状の形式や書式に、法的な決まりはありません。
使う用紙は自由ですし、縦書き・横書きの指定もなく、手書きでも、PCで作った書類を印刷したものでも法的に有効です。

ただし、鉛筆や摩擦で文字を消せるボールペンを使うと、文書の信頼性が損なわれます。
消せる文房具を使うと、改ざんのリスクも高まるので、委任状を手書きで作るときは、黒のボールペンや万年筆を使いましょう。

委任状を使った不動産売却の流れ

委任状を使い、第三者に不動産売却を頼む場合、手続きは以下のような流れで進みます。

・委任状を作成
・不動産業者に売却を依頼
・売却活動開始
・買い主と売買契約を締結
・引き渡しと代金の受け取り

委任状を作り、代理人に渡したら、後は待っているだけです。
ただし、代理人ができるのは、委任状に書いてある範囲内の手続きのみ。
売却後の登記申請まで委任している場合は、登記手続きも任せられますが、委任内容が売買手続きだけなら、登記の申請は自分で行う必要があります。

不動産売却で委任状を用意する際の注意点

●委任する内容・権限・期限を細かく定める

委任状を使って不動産売却を進める際、最も注意すべきポイントは、委任する内容や権限の範囲、委任状の期限を詳しく具体的に記載することです。
委任状を使うと、第三者に本人と同等の権限を与えられます。
たとえば、「不動産売却に関する一切を任せる」といった広い表現を使った場合、代理人が売り主の意思を無視して勝手に売却価格を変えたり、買い主を決めたり、お金を受け取ったりできるのです。

また、委任状の作成日を書いていなかったり、期限を記載していなかったりすると、「その気になったら売る」といつまでも売却活動を進めてくれないといったトラブルになる可能性もあります。

無制限・無期限の委任状は、悪用しやすいので、「任せるのは売買契約の締結まで」「有効期限◯年◯月◯日まで」など、必ず委ねる権限の範囲や期限を明記しましょう。

●委任状に捨印を押さない

委任状を作成する時は、捨印を押さないことも大切です。
捨印とは、書類の内容を変更する際に必要な訂正印を、あらかじめ押印しておくこと。
契約書の内容を変更する場合、契約書を作り直すか、該当する箇所を二重線で消し、訂正印を押す必要があります。
捨印を押しておけば、何か変更があったときにその場で書面の訂正ができるため、捨印を求められることは少なくありません。

しかし、捨印を押すということは、第三者が好きなタイミングで委任状の内容を改ざんできるということです。
不動産の所有者に不利な委任内容や、売却条件に書き換えられるリスクがあるため、捨印を押さないように注意しましょう。

●委任状を使った売却であることを買い主へ伝える

委任状を使って不動産を売却するときは、できるだけ早く買い主側に「代理人を立てている」と伝えることが大切です。
代理人経由で不動産を売る場合、買い主側からすると、目の前の委任状が本物なのか、所有者が売却に同意しているのかわからないので、本人確認を取る必要が出てきます。
売買契約や引き渡しの当日になって、「実は代理人による取引です」と伝えた場合、本人確認が終わるまで買い主を待たせることになるため、心象が良くありません。
不動産売却は、大きな金額を動かす取引なので、売り主や不動産に不安を与えると、取引を断られてしまいます。
委任状を使うときは、正式な委任状であること、手続きに問題がないことを丁寧に説明して、買い主に安心してもらいましょう。

不動産売却の委任状を用意するときのポイント

●委任状の最後に「以上」と書く

不動産売却の委任状を用意する時は、委任状の最後に「以上」と書くことをおすすめします。
末尾に以上と記載しておけば、文末に何か文章を書き加えられる、といった改ざんの手口を防げるからです。
委任状を使った不動産売却では、代理人がなりすましでないことを証明するため、委任状を買い主や買い主側の不動産業者にも見てもらいます。
書面に不備があると、委任状や取引自体の信頼性が下がるので、隙のない文書を作りましょう。

●禁止事項や注意事項を盛り込む

委任状の不正を防ぐという意味では、禁止事項や注意事項を盛り込むのも効果的です。
たとえば、「売却価格が◯万円を下回る場合、売却を認めない」「委任状そのものを第三者に渡さない」「売却価格や条件の変更は、その都度、所有者と話し合って決める」など。
所有者が決めた条件で不動産を売ってもらえるように委任する内容を固めておくと、トラブルのリスクを減らせます。

まとめ

委任状を用意すると、自分で不動産売却できない時に、代理人に売却手続きをやってもらえます。

ただ、委任状は、本人と同等の権限を与えられる書類です。
あいまいな表現で白紙委任したり、有効期限を書いていなかったりすると、書面の改ざんや不動産の悪用といった余計なトラブルを招いてしまいます。
委任する内容や禁止事項を明確に記載し、実印と印鑑証明を添付して、信頼性の高い委任状を作りましょう。

 

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