
不動産の更地渡しとは?メリット・デメリットや注意点を紹介
2021.03.11
更地渡しとは、不動産の売却時に建物を解体し、土地だけの状態にして引き渡す方法のことです。
建物を取り壊すため、物件に問題があっても引き渡し後買い主とトラブルにならない、更地にすることで不動産を売却しやすくなるというメリットを持つ一方、解体費用がかかるといったデメリットも存在します。
更地渡しのメリット・デメリットや注意点を押さえておきましょう。
中古物件売却と何が違うの?更地渡しとは
●既存の建物を解体してから引き渡すこと
更地渡しとは、不動産を売却するとき、既存の建物を解体し、空き地にしてから買い主に引き渡す売却方法のことです。
手続き上、先に家を解体してから買い主を探すこともあれば、中古住宅として売却活動を始め、買い主と交渉する中で「引き渡しまでに更地にする」と決める場合もあります。
基本的には、老朽化やその他の事情で、建物があると買い主が見つからないときに利用する選択肢です。
●現状渡しとの違い
現状渡しは、家の修繕や掃除などをせず、家と土地をセットでそのまま買い主に引き渡す売却手法のことを指します。
更地渡しと違って、解体費用を負担する必要がないため、売り主の負担を抑えられるのが特徴です。
また、現状渡しだと、既存住宅のリフォームやリノベーションを考えている層にも物件を売り込めます。
多少経年劣化が進んでいても、基礎が頑丈で問題なく住める物件なら、現状渡しも視野に入れましょう。
更地渡しを選ぶメリット
●買い主探しが楽
更地渡しは、買い主から見ると、「建物の老朽化を気にしなくて良い」「解体費用が不要」「購入後すぐに建築工事に着手できる」便利な土地です。
既存の建物を解体し、自分好みの家を建てたい方や、店舗やアパートに建て替えたい買い主をターゲットにすれば、買い主を見つけやすいというメリットがあります。
特に、そのままの状態では使えない古屋が建っている土地は、更地渡しにすることで市場での競争力が高まるため、好条件での売却も夢ではありません。
●売却に時間がかかっても特定空き家に指定される心配がない
特定空き家とは、長期間放置されていて倒壊の危険性があったり、老朽化や劣化で景観を損ねていたりする空き家の指定制度です。
近隣住民の相談や通報によって、周囲に迷惑をかけている住宅が特定空き家に指定された場合、不動産の所有者は、行政から「責任をもって対処するように」と指導・勧告・命令を受けたり、強制的に家を解体され、その費用を請求されたりしてしまいます。
しかし、持て余している物件を更地にしてしまえば、特定空き家に指定される心配はありません。
基本的に、地方や郊外の物件、古い住まいは、売却に時間がかかります。
売却を待っている間に、特定空き家に指定されたり、近隣住民の恨みをかったりするリスクを回避できることも、更地渡しの強みです。
●解体費用を譲渡費用にカウントできる
不動産を売却すると、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた利益に応じて、譲渡所得税を納める必要があります。
ただ、不動産を売るために解体工事を行った場合、解体費用を譲渡費用として計上可能です。
仮に、不動産の売却価格が200万円で、取得費と譲渡費用が合計100万円、解体工事に100万円かかった場合、解体費用を全額譲渡費用にできれば、譲渡所得税が無税になります。
●現状渡しで売るよりもクレームになるリスクが低い
更地渡しで土地を売却した場合、建物に関するクレームの心配がなくなる点も、大きなメリットです。
不動産売却では、雨漏りやシロアリ被害など、建物に重大な問題がある場合は買い主に説明する義務があり、契約書の記載と物件の現状が異なる場合、売り主が責任をもって対応することも義務付けられています。
仮に、不動産の売却後にシロアリ被害の痕跡が見つかった場合、損害賠償等を請求される可能性があるのです。
法的な争いになると、「売却時に問題があることを知らなかった」と主張しても認められないため、中古不動産を売るときは、土地や建物の問題点を調べ、書面で買い主に通知する必要があります。
しかし、更地渡しなら、そもそも建物が存在しないため、建物についてのクレームが発生しません。
不動産売却後のリスクを軽減できるのです。
更地渡しで不動産を売るデメリット
●解体費用が高額
・木造戸建ての場合、解体費用の相場は1坪あたり3~5万円、つまり建坪30坪の家を解体すると、100万円前後かかります。
中古住宅として売り出し、買い主との交渉で解体を決めたといったケースを除けば、更地渡しの解体費用は売り主負担になることが多いので、更地渡しをするためにはある程度の金銭的な余裕が不可欠です。
また、特に地方の郊外にある物件は、更地にしても買い主が見つからない可能性も考えられます。
家を取り壊すと、固定資産税の優遇措置がなくなり、維持費が高くなってしまうため、更地にすると売りやすい物件、高く売れる物件なのかを見極めることが重要です。
●丁寧にすり合わせしていないとトラブルになりやすい
更地渡しの条件は、売り主と買い主の交渉で決めていきます。
大雑把に「更地渡しする」という条件で売買契約を進めると、「地面に障害物が埋まっていた場合どちらが撤去費用を出すのか」「整地をするのか」「整地費用はどちらの負担か」などで意見が食い違い、トラブルになる可能性があるため、注意が必要です。
売り主と買い主の間で、不動産に対する知識量や認識は違って当然なので、更地渡しをするときは、引き渡しの条件についてすり合わせ、決めた内容を明文化することを心がけましょう。
更地渡しをおすすめする物件の特徴
●建物の老朽化や劣化が激しく住めない物件
築40年、50年といった築古物件で、なおかつ定期的に手入れされていない住宅は、ダメージが大きく修繕しても安全に住めない可能性が高いため、更地渡しが向いています。
基本的に、年単位で放置されていた物件は、どこに問題があるのかわかりません。
住宅の現状を調べるのもお金がかかりますし、老朽化が進んでいると、修繕やリフォームをしても快適に暮らせない可能性が高いです。
更地渡しで売ると決めておけば、家の片付けや掃除も不要ですし、家を新築したい層に絞って不動産を売り込めます。
●事故物件
自殺や発見まで時間のかかった孤独死、ニュースになるような凄惨な事件の現場になった事故物件は、丁寧に清掃しても買い主から避けられてしまうため、そのまま売るのが難しいです。
ネガティブなイメージが残っている限り、不動産はなかなか売れません。
売れたとしても、大幅に値下げすることになるため、少しでも売却条件を良くしたいなら、更地渡しを考えましょう。
現場となった建物がなくなれば、買い主側の心理的な拒否感を薄められます。
●建物の種類や間取りが近隣のニーズに合っていない物件
・間取りやデザインが古い
・単身者が多い地域のファミリー向け物件
など、地域の住宅ニーズに合っていない住まいは、更地渡しで売却した方が良いケースもあります。
たとえば、時代と共にファミリー世帯が減り、単身者が増えた地域で家族向けの物件を売る場合、単身者向けのアパート建築を考えている投資家などを狙ったほうが、好条件で売れる可能性が高いです。
更地にすることで、土地活用の自由度が高まり、幅広い買い主のニーズに対応できるようになるため、売りたい物件が地域のニーズに合っていない場合は、更地渡しを検討しましょう。
●地価が高く更地にしたほうが良い条件で売却できる物件
地価の高いエリアにある物件で、なおかつ建物がある程度老朽化している場合、更地渡しがおすすめです。
なぜなら、土地そのものに価値があるエリアなら、家を建てる・賃貸物件を建てる・店舗を建てる・周囲の土地を買い取ってまとめ大きなビルを建てるなど、空き地をさまざまな方法で活用できるから。
建物があると、土地を自由に使えません。
更地にして、「すぐに開発できる土地」として売り出したほうが、買い主に興味を持ってもらえます。
更地渡しをする際の注意点
●更地渡しに関する決め事は必ず書面を交わす
更地渡しに関する決め事は、必ず売買契約書などの書面に盛り込みましょう。
解体工事を行う日付や負担の割合、埋没物が出てきたときの扱いに加えて、家の周りにある塀や庭木の処理まで決めておくと、認識の違いによるトラブルを防げます。
不動産売却のような大きな取引でトラブルが起きた場合、基本的に「契約書に記載しているかどうか」で責任の所在や対応が変わるため、口頭で約束したことも、書面にすることが大切です。
●解体工事後に滅失登記を行う
建物を解体した後は、滅失登記という手続きを行う必要があります。
滅失登記とは、法務局に登録されている、公的な建物の所在地や所有者情報などを消す手続きのこと。
登記が残っていると建物を新築できないので、解体工事を行ってから1ヵ月以内に手続きしましょう。
なお、滅失登記の申請時は、登記の申請書や解体業者の発行する滅失証明書、建物の登記事項証明書などが必要です。
●解体工事を始める前に近隣住民へ挨拶をする
解体工事は、騒音・振動・粉塵などで周囲に迷惑をかける可能性があるため、工事の前に近隣住民へ挨拶をしておきましょう。
事前に挨拶をし、工事の日程などを周知しておくだけでも、工事中のクレームをある程度減らせます。
挨拶自体は、売り主が同席しても良いですし、工事業者に任せても構いません。
小さな気遣いが、スムーズな不動産売却につながります。
まとめ
更地渡しは、建物を解体し、土地だけを引き渡す不動産の売却方法です。
買い主側の選択肢が広がるため、建物がある状態で売り出すよりも、売りやすくなるというメリットがあります。
一方、30坪の木造戸建てでも、100万円前後の解体費用が必要です。
あらゆる住宅を高く売るために使える戦略ではないので、事故物件や地域のニーズに合わない住宅など、更地にしたほうが高く売れる物件を見極めて、更地渡しをするか現状渡しで売るかを決めましょう。