
家の権利書を紛失していても不動産は売却できる?紛失時の対処法
2019.05.09家の権利書を紛失していても、不動産は売却可能です。
ただし、家の権利書は不動産の所有者であることを証明する重要な書類なので、紛失している場合、別の方法で家の所有権を証明する必要があります。
スムーズに売却手続きを進めるためには、家の権利書を紛失した場合どういった影響があるのか、どのような手続きをすれば良いのか、知っておくことが大切です。
そこで今回は、家の権利書を紛失した時の対処法を解説します。
家の権利書とは?
●不動産の名義人を証明する書類のこと
家の権利書とは、不動産の名義人、つまり法的な所有者であることを証明する書類のことです。
ただ、「権利書」という書類が存在するわけではありません。
実際には、不動産の登記をしたときに法務局から発行される、登記済証または登記識別情報という英数字12桁の文字列が、いわゆる権利書と呼ばれています。
なぜこれらの書類で不動産の名義を証明できるのかというと、日本では不動産の権利や所有者を、登記簿というデータベースで管理しており、登記が行われた際に発行される書類、登記済証や登記識別情報は、手続き時に一度しか発行されないからです。
登記簿上の所有者と、同じ氏名が記載された権利書は、世の中に1枚しか存在しません。
権利証を持っていることが、不動産の名義人であり所有者であるという強力な証明になるからこそ、不動産の売却時には家の権利書が必要なのです。
●権利書・登記済証・登記識別情報の違い
一般的に「権利書」と呼ばれる書類は、登記済証と登記識別情報の2種類存在します。
両者の違いは、以下の通りです。
・登記済証:2005年3月以前の登記で発行された紙の書類。
・登記識別情報:2005年3月以降の登記で発行される書類。12桁の英数字でできた文字列が本体。
家を手に入れたタイミングで、発行される書類が変わります。
なお、登記識別情報は、2015年にフォーマットが一部変更されました。
旧フォーマットは、A4サイズの用紙に12桁の文字列が記載されたもので、新フォーマットは、文字列の部分に目隠しシールが貼られ、さらにQRコードも付いているのが特徴です。
●紛失した家の権利書は再発行できない
紛失した家の権利書は、いかなる理由があっても再発行してもらえません。
なぜなら、権利書を何枚も発行すると、書類の偽造等がしやすくなってしまうからです。
そのため、家の権利書を紛失している場合、権利書とは違う方法で、「自身が登記簿上の所有者と同一人物である」ことを証明する必要があります。
登記識別情報に関しては、12桁の英数字を誰かに見られるだけで、情報を盗まれたのと同じ状態になってしまうため、誰にも見せないように注意しましょう。
不動産の売却時に家の権利書が必要な理由
不動産の売却時に家の権利書を求められるのは、第三者によるなりすましや詐欺を防ぐためです。
不動産売却では、複数の本人確認方法を重ねることで、不正な取引を予防しています。
売り主が登記簿上の所有者であることを家の権利書で、登記簿上の所有者と売り主が同一人物であることを本人確認書類で確かめ、さらに実印と印鑑証明書を求めて、不動産や所有者の権利が悪用されないよう保護しているのです。
売り主が権利書の紛失に気付いたときにすべきこと
●不正登記防止の申出
不正登記防止の申出とは、申出をしてから3ヵ月間、誰かが不動産の登記を変更しようとしたとき、元の所有者に通知してもらえる制度のこと。
申出をしておけば、いつの間にか登記を書き換えられる心配はありません。
違法な登記の書き換えは無効ですが、万が一、登記が変更されてしまった場合、元の状態に戻すのは大変です。
もし、登記識別情報を誰かに盗み見られたり、家の権利書や印鑑証明書を盗まれたりした時は、できるだけ速く法務局に出向いて不正登記防止の申出を行いましょう。
●登記識別情報の失効申出
登記識別情報の失効申出は、12桁の英数字で構成された文字列そのものを、無効にする手続きです。
この手続きを実施した場合、発行されている登記識別情報を使った不動産の売却や登記の変更ができなくなります。
たとえ身分証明書や印鑑証明書を偽造されたとしても、不動産を乗っ取られるリスクがなくなる、強力な防衛手段です。
なお、登記識別情報を失効させても、登記簿上の権利者はあくまでも元の所有者のままなので、代替手段で本人確認すれば、不動産は売却できます。
家の権利書を紛失していても不動産は売却できる?
●権利書の代わりに権利や本人確認できれば売却可能
不動産の売却時は、通常なら家の権利書が不可欠です。
しかし、家の権利書がない場合、ほかの手段で本人確認できれば、問題なく不動産を売却できます。
そして、家の権利所を紛失したときに取れる方法は、以下の3種類です。
・事前通知制度
・司法書士・弁護士による本人確認
・公証人を使った本人確認
実施するのは、3通りある手段の内、一つで構いません。
各手続きの内容を順番に見ていきましょう。
●対策①事前通知制度を使う
事前通知制度とは、家の権利書がない時に、法務局と郵便のやり取りをして本人確認してもらう制度のことです。
具体的には、以下のような手続きを行います。
・買い主が決まってから、家の名義を売り主から買い主へ移す登記の申請を行う
・法務局から登記簿上の名義人へ、本人限定受取郵便で事前通知書を送ってもらう
・売り主が事前通知書を受け取り、期限内に実印を押して返送する
・名義の変更が行われる
本人限定受取郵便は、受け取る際に本人確認書類の提示が必要な郵便で、事前通知書は「登記手続きの申請は、名義人本人が行ったもので間違いないか?」を確認する書類です。
名義人への書類送付、本人限定受取郵便、実印を押した上で期限内の返送、という複数のステップで本人確認を受けることで、「なりすましの可能性は低い」と認めてもらえます。
●対策②司法書士・弁護士に本人確認を依頼する
司法書士や弁護士に本人確認を依頼するという方法です。
司法書士や弁護士は、法的に有効な書類を作成できるその道の専門家。
司法書士や弁護士と面談を行い、身分証明書を提示して、不動産の所有者本人であることを確認してもらえば、権利書の代わりになる書類、「本人確認情報」を作ってもらえます。
ただし、プロに依頼する以上、相場で5~10万円ほどのお金が必要です。
●対策③公証人に本人確認してもらう
公証人に本人確認をしてもらい、権利書の代わりとするという手もあります。
公証人とは、公的に有効な書類を作成したり、持ち込んだ書類の内容を認証したりする国の機関、公証役場で働く法律のプロです。
公証人による本人確認は、いわば「国が本人だと認めた」ということなので、家の権利証を紛失していても、不動産の売却や登記手続きを進められます。
権利書以外の必要書類
不動産を売る時は、権利書以外に以下のような書類とアイテムが必要です。
・登記簿謄本または登記事項証明書
・不動産購入時の売買契約書
・購入時の重要事項説明書
・建物の図面
・土地の測量図・境界確認書
・検査済証
・住宅設備に関する書類
・固定資産税納税通知書
・身分証明書
・住民票
・物件の鍵
・実印
・印鑑証明書(発行後3ヵ月以内のもの)
・管理規約(マンションの場合)
紛失した権利書の代わりとなる手続きを取っていても、上記の必要書類がないと、不動産を売却できません。
スムーズに不動産売却を進めるためには、事前準備が何よりも大切です。
あらかじめ不動産売却に必要な書類を仲介業者に確認し、売買契約の締結日や物件引き渡し日までに揃えておきましょう。
家の権利書を紛失したまま売却手続きを進める際の注意点
●事前通知は買い主に嫌がられる可能性がある
事前通知は、手続きの都合上、売買契約を交わした後に追加で本人確認を行うことになります。
買い主側からすると、事前通知が終わるまで、「お金を払ったのに家の名義が自分のものではない」期間ができてしまうため、取引の安全性を重視する買い主から避けられやすいです。
「家の権利書がない」ことは、不動産市場において大きなデメリットなので、ある程度、売却期間が長引くことも考慮しておきましょう。
また、権利書がなくても問題なく取引できることを納得してもらうためには、売買契約前の十分な説明が必須です。
●本人確認に時間やお金がかかる
家の権利書を紛失したときの本人確認手続きには、時間やお金がかかります。
たとえば、事前通知制度を利用する場合、法務局から売り主の元へ、売り主から法務局へ通知書を送付するための切手代が必要ですし、書類の往復も当日中にできるわけではありません。
司法書士・弁護士への本人確認依頼は、相場だと5~10万円かかります。
公証人による本人確認も、数千円の手数料に加えて、平日の日中に公証役場へ足を運ぶという労力が必要です。
それぞれの方法にそれぞれのメリット・デメリットがあるため、自分にとって使いやすい本人確認手続きを選ぶ必要があります。
●実印や印鑑証明書も紛失していたら家を乗っ取られることも
住宅の売却や登記の変更には、家の権利書だけでなく、実印や印鑑証明書も必要です。
そのため、ほとんどの場合、家の権利書や登記識別情報を紛失しただけなら、不動産の名義を勝手に書き換えられたり、いつの間にか家を売却されたりする心配はありません。
しかし、もし家の権利書と実印、印鑑証明書をセットで紛失している場合、第三者によるなりすましが可能です。
一度、登記を変更されてしまうと、不正な手続きであっても名義を取り戻すのが大変なので、権利書の紛失に気付いたら必ず法務局に相談しましょう。
まとめ
家の権利書を紛失しても、不動産は売却できます。
ただし、権利書を使った本人確認は、第三者による不動産の不正売却などを防ぐためのシステムです。
代替手段はありますが、事前通知・専門家による本人確認・公証人の本人確認のどれもある程度の時間やお金がかかってしまいます。
権利書なしで家を売るときは、売却準備を早目に進めましょう。